タクシーのお仕事の一つとして“迎車”というものがあります。お客様が単純に手を挙げるのではなく、配車センターに配車依頼の電話を受け、迎車料金を頂いた上でお客様がいるお宅やオフィスの等のご指定の位置へお迎えに行く営業方法です。
朝によくあるケースなのですが、ご指定のお迎えの場所がスクールゾーンなどによる時間帯指定の歩行者専用道路のど真ん中にある場合があります。(お客様がご自身のエリアが規制エリアという自覚がないので迎車で呼んでしまうケース)
またはお客様をお乗せしている際にお客様の指示で時間帯指定の通行禁止区間に進行を指示されるケースもあります。
タクシードライバーならそんな時どうすればいいと思いますか?
タクシーというのはお客様あっての商売ですのでタクシーなら特別に許されるはず、それに今まさに待たせているお客様の依頼、或いは今自分の後ろに乗っているお金を出してくれる立場であるお急ぎのお客様のためであれば標識があっても入っていくべきだと思いますか?
それとも法令で決められている事項を守るべきだと思いますか?
答えは一つしかありません。
私たちタクシードライバーは公道で商売をさせていただく立場である以上、しっかり法令順守していかなければならない立場です。
法令で決められた通行禁止エリアだったら当然進入しません。
ただ、そう頭でわかっていてもその場で見ていると車はガンガン入っていきます。
それを横目に、標識をしっかりと守る行動ができますか?
今回は時間帯指定の歩行者専用道路の車両通行禁止区間について考えてみましょう。
道路標識と道路交通法による定義
以下の道路標識が通行禁止エリアの入り口にたてられています。
時間帯の補助標識とともに近くに幼稚園小中学校のあるエリアでは右左折する際に必ずチェックして進行します。
勘違いしている方がよくいらっしゃるのですが、
・車止めがあるから通れない
・車止めがないから通れる
ではありません。
標識ベースでそこが入れる場所かどうかを判断しなければいけないのです。


道路交通法を見てみましょう。
(通行の禁止等)
第八条 歩行者又は車両等は、道路標識等によりその通行を禁止されている道路又はその部分を通行してはならない。
2 車両は、警察署長が政令で定めるやむを得ない理由があると認めて許可をしたときは、前項の規定にかかわらず、道路標識等によりその通行を禁止されている道路又はその部分を通行することができる。
3 警察署長は、前項の許可をしたときは、許可証を交付しなければならない。
4 前項の規定により許可証の交付を受けた車両の運転者は、当該許可に係る通行中、当該許可証を携帯していなければならない。
5 第二項の許可を与える場合において、必要があると認めるときは、警察署長は、当該許可に条件を付することができる。
6 第三項の許可証の様式その他第二項の許可について必要な事項は、内閣府令で定める。
(罰則 第一項については第百十九条第一項第一号の二、同条第二項、第百二十一条第一項第一号 第五項については第百二十一条第一項第一号の二)(歩行者用道路を通行する車両の義務)
第九条 車両は、歩行者の通行の安全と円滑を図るため車両の通行が禁止されていることが道路標識等により表示されている道路(第十三条の二において「歩行者用道路」という。)を、前条第二項の許可を受け、又はその禁止の対象から除外されていることにより通行するときは、特に歩行者に注意して徐行しなければならない。
(罰則 第百十九条第一項第一号の二、同条第二項)第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
第八条(通行の禁止等)第一項又は第九条(歩行者用道路を通行する車両の義務)の規定に違反した車両等の運転者引用元:道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)
施行日:令和四年五月十三日(令和二年法律第四十二号による改正)罰則
通行禁止違反 2点
(酒気帯び点数 0.25未満 14点 0.25以上 25点)引用元:警視庁
上記の文章を見ると許可を受け認可証を携帯すれば禁止区分でも通行できるということが書かれています。
認可を受けるための条件とはどんなものでしょうか?
通行禁止区分を通行するためには許可証が必要
警視庁のホームページでは通行禁止のエリアを通行するための認可証を受け取るための条件と方法が書かれています。当てはまる方は予め申請するとよいでしょう。
申請するだけではなく、道路交通法で定義されているように通行する際には許可証の携帯が必須です。逆に言うと通行証を携帯していない車両はそのエリアの住人だろうが通り過ぎるだけだろうが、違反になってしまうという意識を持ちましょう。
通行許可とは
通行が禁止された道路でも、警察署長から許可証を交付された車両は、通行することができます。
次のような場合には、許可証が交付されます。
- 車庫など車両を保管するための場所に出入りするため
- 歩行が困難な方が車両を利用するなどの事情があるため
- 荷物の集配をするため
- 電気、ガス等の修復工事をするため
- 道路の維持管理をするため
- 冠婚葬祭、引越し等の社会生活上やむを得ない理由があるため
申請先
通行したい道路を管轄する警察署(交通規制係)に申請をしてください。
(通行したい道路が複数の警察署に及ぶ場合は、いずれかの警察署に申請をしてください。)
高速道路の場合は、高速道路交通警察隊(交通規制係)となります。引用元:警視庁
時間帯通行禁止が設けられている意味を考える
この規制は、地域の方が子供を守りたい、住人を守りたいという事で制定されていることが殆どです。或いは実際に死亡事故があったエリアの可能性もあります。
よく迎車で入れないと伝えて出てきたていただいた際に不機嫌そうに「なんで入ってこないの?」なんておっしゃるお客様がいますが、それはタクシードライバーにではなく地域の方に言うことです。お客様は最寄りの警察、自治体、身近なところだったら町内会の誰かに問い合わせてみましょう。嫌なら許可証を取るか、引っ越すかしかありません。
私たち乗務社員はその地域の人間ではないですが、プロドライバーなので常に歩行者を守る意識を持ち、法令を遵守するのみです。どんな商売であっても、お客様へのサービスというものは法令遵守の上に成り立つものです。
「いつもタクシーに入ってもらってるんだけど?」ともいわれる時もありますが、許可証の持参なく禁止の時間帯に通行したのが確実ならば、すべてのタクシードライバーが間違いだと伝えます。プロの乗務社員であればタクシードライバーの違反につながりかねない、迷惑になるようなお客様に対する悪い習慣づけにつながる営業の仕方はやめましょう。
なぜ守れないタクシーがいるのか。
考えられることといえば
- お客様ともめるのがめんどくさい
- 時間がもったいないのでさっさとやってしまったほうが早い
- 距離が出そうな行先(売り上げ重視の行動)のお客様なのでどうしてもやりたい
- 単純に標識を読み解く力が弱かったり、コンプライアンスや安全に関する意識がない
歩行者専用道路の違反通行で人身事故を起こしたケースで有名なのは風見慎吾さんのお子さんが中町四丁目近辺で亡くなられた事故も知っておくといいと思います。
見つからなければいいだろうと思っている方は結構多いのではないかと思いますが、違反行為×人身事故という方程式が成り立つと、罪の度合いが爆上がりします。内容が悪質な場合は危険運転致死傷罪に問われる可能性も出てきます。定義されている自動車運転死傷行為処罰法は正式名称「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」というものです。
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
引用元:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
(平成二十五年法律第八十六号)
自分がそのような加害者にならないよう、地域の住民を守る意識をもってプロらしい仕事をして行けるドライバーがたくさん増えるといいですね。
規制時間でも許可証があれば規制時間エリア内に進行可能となる方法はある
別のページで障害をお持ちの方に特化したタクシーの乗車の仕方を情報をまとめているページもありますので参考になさってください。

規制時間エリアにお住いのお客様の対処方法
警視庁のホームページにはこのように書かれています。
通行禁止道路通行許可は、原則として車両を特定して許可証を交付していますが、歩行困難者がタクシー等を利用する場合には、事前に車両を特定することはできませんので、歩行困難者に対して許可証を交付することになります。
通行許可を受けた歩行困難者を送迎する場合は、通行禁止道路を通行することができますので、タクシー等を利用する際には、「通行許可を受けている旨」、「申請者の氏名」、「許可証番号」をタクシー会社等に説明してください。引用元:警視庁
配車依頼する場合、許可証がない場合はタクシーは入ってはいけない存在ですが、警視庁のホームページに記載があるように許可証をお持ちであれば以下の方法で配車センターに依頼が可能です。特に体を動かすことが非常に困難な場合は下記の1番のやり方は有効でしょう。
※万が一タクシー会社がその話を理解できなかった場合は、一連の話を理解できる他の安全な法人タクシー会社に配車を依頼しましょう。
- 許可証の「申請者の氏名」「許可証番号」を配車センターに伝える(タクシー乗務社員が規制エリア内で警察に停められた際に回答できるようにする為)ことで規制エリア内でも進行可能。申請者が乗車後は許可証を携帯するとともに、許可標証を外部から見やすい位置に掲示するように運転者に依頼する。
※通行禁止道路通行許可証は、通行する際に携帯する義務があります。 - 付き添いの方などが許可証を持参して通行禁止エリア外の一番近そうなところまで出てタクシーを待ち、許可証持参の状態でタクシーに乗り込んだ状態で自宅前まで行く。
- 許可証を持っていない場合は禁止エリアの一番近い入口などでタクシーを待つか、進入禁止時間帯を避けて配車していただく。
乗務社員の対処の仕方
迎車の場合
配車依頼内容を確認し、許可証もなく入れない時には対処方法を協議の上お客様に連絡をしてもらう事。タクシー乗務社員は配車センターの担当者が法令を理解していないような受け答えをしたときには課の上司などに相談してみましょう。
実車中の場合
危ないと思われるエリアでご乗車いただいたらすぐさま「今の時間は歩行者専用エリアがある場合進入できませんのでご了承ください」と先に伝えておくといいです。
あまり事情を気にされないお客様に指示された場合は丁重に説明をし、「大変申し訳ないのですが通行はできません」とはっきり伝えましょう。常識をお持ちのお客様であれば説明すればわかっていただけます。
更に危ないパターン
時間帯が中途半端なエリアには要注意です。朝の時間なら7:30~8:45などと大体決まってますが、13:00~16:00などの様に午後の下校時間に合わせた規制です。
私は初期の頃やらかした二回の時間帯の違反のうち一度はこれでした。
とにかく道を曲がる際に、道路入り口にある標識をよく見ること、これにつきます。特に大きな道から小さい道へ入るときは気を付けること。
パトカー又は白バイが中であなたを待っています。
まとめ
この時間帯の違反、先ほども書きましたが私は迎車をやりはじめて間もなくのころ二回ほど違反をしました。当時は必死でお客様をお乗せして営収を上げないといけない、という気持ちばかりが先走りしたのと、標識を読み解く力が全然甘かった、そしてタクシーは何となく許されるのかな、お客様優先だろうしこれで住人が入れないなんてことはないよな、などと自分に都合よく判断していたと思います。(情けない!!)
これを機に私は時間帯規制エリアの鬼になりました。自分がよくいくエリアの時間帯規制は規制時間がだいたい頭に入っています。また、お客様があまりに無理やり行かせようとする場合は運行を中止させていただきますと強めにお伝えします。言い争いになりそうなこともありますがプロとして譲るべきではありません。無理やり法令を侵させるようなお客様だった場合は運送約款にもかかわる内容のお話になります。
お客様から
「プロなら行きなさいよ(時間帯通行規制中のエリアに)」
と言われたこともあります。
しかし捕まって警察に言われることは
「運転手さんプロだったら入っちゃダメでしょ」なのです。
当たり前ですが警察の方の言う事が正しいです。
もう少し一般の方の交通事情に関する知識が常識的で正しい認識になっていくことを強く願います。





